会社員「大竹野正典」さん(48歳)
先ほど友人から教えられて
とあるネット・ニュース記事を読んだ。
10人ほどの団体が京都の海で海水浴を楽しんでいると
そのうちの男性一人が行方不明になったそうである。
警察は捜索の末
昨日20日
大阪府東大阪市の会社員
「大竹野正典」さん(48歳)
の遺体を発見したそうだ。
私はこの記事を読んでくやしくなった。
どうしようもなく
くやしくなってしまった。
不謹慎な言い方をすれば
会社員「大竹野正典」さん(48歳)のような死亡記事は
毎年夏になると何度か目にせざるをえない。
それらは新聞の一面に掲載されるわけでもないし
ワイドショーで取り上げられるわけでもない。
「大事件」として扱われる事はなく
「今年もまた一人・・・」
という表現が付加される場合すらある。
事実この会社員「大竹野正典」さん(48歳)の死は
他のネットニュースにおいて
「京都で大阪の会社員2人が水死」
という見出しで記事になっていた。
京都の海で死亡した事以外全く関係のない2人が
1つの記事として報道されていたのだ。
私よりも8つ年上だった会社員「大竹野正典」さん!
私が遊気舎という劇団の座長になり
初めて作・演出をしたのが若干20歳!
その頃の彼が28歳だったと知って今驚いた!
当時の私は彼を既にベテラン脚本家だと認識していた!
私がデビュー作『伝説の魔人ラテンキング』という
大馬鹿にくだらない作品を発表する1年前に
彼は「テアトロインキャビン戯曲賞」の佳作を受賞し
関西演劇界では話題の人物だった!
当時はお互い
大阪市は北区堂島にあった
「スペースゼロ」という劇場を拠点にしていた!
そこは劇場とは言え専門学校の教室だった!
だから「支配人」という役職はなく
「音響学科」のたいそう遊び人な教師達が運営を任されていた!
体育館でバスケット大会をしよう!
いい肉が入ったからすき焼きをしよう!
生徒の卒業制作にナレーションを入れてくれないか?
新しい機材で遊ばないか?
数々の誘いに乗って
私は家に帰るのも大学に通うのも忘れて
ほぼ毎日のようにそこにいた!
しかしそれは私だけではない!
いつだって脚本家や演出家や俳優がそこにいた!
なにかイベントがあると言えば集まり
なにかイベントでもしようかと言えば集まり
なにか最近イベントがないなぁと思えば集まり・・・
とにかくいつだって何人もの演劇人が
紙コップに注いだ安い焼酎やビールを片手に
本来は学舎であるはずのそこに
夜はもちろん
朝でもいた!
「大竹野さんいっぺんうちに出ちゃってよ!」
「えー!僕俳優ちゃうよー!」
彼の演技は見た事もないへんてこ演技だった!
私は今でもたいそう上手にその物真似ができる!
私自身も「へんてこ演技」とは言われるが
”作・演出家の演技はへんてこでいいのだ!”
という何の根拠もない居直りは
ひょっとしたら大竹野さんの影響だったかもしれない!
いやがる彼を酔った勢いで
なかば無理矢理に俳優として引っ張り出してみた!
その頃には既に日常に潜む恐怖と悲哀を感覚的に鋭く描く
ひときわ技術の高い脚本家として
多くの分野から注目されていた「大竹野さん」だったが
私が彼を俳優として引っ張り出した作品のタイトルは
『アピョーン家族』だった!
とても「アピョーン」な家族の中の一員として
私は「大竹野さん」に作・演出した!
「大竹野さん」は期待に応えて
すさまじく「アピョーン」な演技を披露してくれた!
やがて「スペースゼロ」が閉鎖され
お互いの進む方向は大きく分かれていった!
いや!
基本は何も変わってはいなかったと思う!
「大竹野さん」は「くじら企画」を設立し
私は遊気舎を抜けPiperとなった!
狭い関西演劇界で「大竹野さん」の活躍は時たま聞こえてきた!
新作のタイトルを聞くだけで
”きっと相変わらずな事をやっているのだな”
と想像していた!
恐らく私の事を耳にした「大竹野さん」も
「後藤君は相変わらずアピョーンな事してんねんな!」
と思ってくれていたに違いない!
「俳優」同士ならばどこかで共演はあろうが
「脚本家」同士に共演はない!
そんな理屈から
我々は15年以上も顔を合わせる事が無かった!
そしてそれは今日
私の残る生涯において決して叶わない事に決まった。
彼は若い私と違って
「演劇で食べて行く」
とか
「トップを獲る」
とかいう言葉に全く興味を示さない男だった。
だからなにかの会社に所属し
家族も養いながら
ここだという時に脚本を書いていたのだろう。
だとすれば脚本を書いた事以外で新聞に載れば
社会的地位は「会社員」という事になる・・・。
仕方がない事とは思いながらも
くやしかった。
涙がこぼれた。
何度ぬぐっても涙があふれて来た。
いいだろう!
報道が言わないのであれば私が言おう!
昨日京都の海で遺体となって発見された
「大竹野正典」さん(48歳)は
作家だ!
関西を代表する優れた脚本家だ!
私と共に遊び
私と共に成長し
お互いの作品を見ては批評し合い認め合った
大事な大事な大阪の戯曲作家だ!
大丈夫だよ大竹野さん!
ほら!
俺ちゃんと言っといたから!
ってきっとさ・・・
あなたはどうせ
「やめてや後藤君!
そんなことどうでもええねん!」
って言うんだろうね!
しばらくそっちに行く気はないけど
どこかいい飲み屋を探しておいて下さいな!

